「法制度の在り方に関するワーキンググループ」の設置
令和3年2月2日に文化審議会博物館部会「法制度の在り方に関するワーキンググループ」が設定されました。設立趣旨は次のとおりです。
博物館を取り巻く環境と社会からの要請が変化する中で、「登録」制度をはじめとする博物館法を改正する必要性が各所で指摘されている。
これまで博物館部会では、博物館の在り方について様々な観点から議論を行ってきたが、上記のような指摘を踏まえて、博物館法制度の在り方について具体的な検討を集中的に行うため、博物館部会の下に「法制度の在り方に関するワーキンググループ」を設置することとする。
審議事項として次の4点が示されています。
(1)博物館の定義と使命について
(2)登録制度について
(3)学芸員資格制度について
(4)登録制度と連動した博物館振興策について
登録制度に関する項目が2つもみられることから、本WGにおける取り扱いの重要度がわかります。
現行登録制度の何が問題か?
文化庁の第1回WG提出資料では登録制度改正の意義を次のように説明します。
1. 制度の理念と目的 すべての博物館が制度を通じて質の維持・向上を図ることができる仕組みへ
2. 制度と連動した博物館振興策 制度を実効的なものとするため、多様な振興策(メリット)との連動が重要
登録(認証)要件を定義し、該当する博物館には振興策を用意するという制度の構造は、現行制度と同様です。現行制度の問題は、登録博物館の比率が低すぎることです(全体の約2割)。そのため、博物館法が現実の博物館の質の維持や向上に寄与することがほとんどない、形骸化した法令となっていることが大きな問題です。
改正議論が検討する振興策
今回の法改正議論では、「登録・相当指定のメリットがほとんどな」いとの認識がベースになっています。新制度ではどのようなメリット(振興策)が検討されているのでしょうか。
令和3年3月24日付「登録制度を中心とした博物館法制度の今後の在り方について(中間報告)」では、「全ての登録施設に対するメリット」として次の点が例示されています(p5)。
1. 予算事業や地方交付税における支援の拡大
2. 税制上の優遇(設置者への優遇や寄附・寄贈に対する優遇)
3. 他の法令体系と連動した振興策(例えば、手続きの合理化や特別な措置)
これらは、現時点で文化庁が検討しているメニューというよりも「理論上考えられる振興策」といえます。中間報告では「今後、関係団体等から広く意見を聴取しつつ、具体的な振興策をひとつひとつ検討していく必要がある。」とします。新たな登録博物館制度(認証制度)の核ともいえる振興策について、WGでもいくつかの具体案は提出されていますが、マストな振興策についての共通見解までは議論が進んでいません。
予算事業と交付税措置への期待
小規模館の立場として、もっとも期待されるのは、登録博物館に対する補助メニューの新設・拡充と交付税措置(特別交付税)でしょう。イメージとしては、指定文化財と補助メニュー・特別交付税のような関係が考えられます。
一定以上の質の博物館を維持するインセンティブを特別交付税で確保しつつ、維持管理経費以外に要する什器の拡充や更新、施設の修繕・改修、資料の購入や保存処理に要する経費、講演会・学習会開催等を補助事業で支援するということが期待されます。
登録博物館の科研費研究機関化
WGでは第2回に浜田座長が登録博物館の科研費研究機関指定に言及されています。現行の研究機関指定要件は、市町村立博物館については、かなりハードルが高い(研究予算水準や一人あたり論文数)ものとなっていますので、これを緩和する方向を模索することとなりそうです。登録博物館を科研費の研究機関指定要件(具体的には「科学研究費補助金取扱規程」第2条第1項以下の号に「登録博物館」の追記)とすることで、博物館の質の向上への大きなインセンティブになるとともに、実力ある学芸員の確保や調査研究活動を積極的に推進する大きな要因となりえます。
一方、日本博物館協会の半田委員は登録制度と研究機関指定の連動については否定的で、次のように述べます。
博物館が研究機関であると位置づけることができる博物館って,全国の 5,700 ぐらいあると言われている博物館の中の本当に一握りだと思うので,研究というのは博物館の一機能ではあるけれども,博物館イコール研究機関である位置づけは,これはなかなかハードルが高くて,制度的には難しいのではないかという視点から,この認証制度と研究機関指定をメリットとしてここで議論するのは,分けて考えた方がいいのではないか。
国の振興策に期待すること
博物館法改正議論について、私が期待することをまとめます。
1. 登録博物館に対する補助メニューの充実
2. 登録博物館に対する特別交付税措置
3. 登録博物館の科研費研究機関指定
これらは、博物館法上は現行法下でも実現可能と考えられます。
しかし、文化庁は登録制度の理念と目的について「すべての博物館が制度を通じて質の維持・向上を図ることができる仕組みへ」(第1回文化庁提出資料,p3)と述べ、さらに「制度を実効的なものとするため、多様な振興策(メリット)との連動が重要」としますので、博物館法改正とともに上記のような振興策を同時に講ずる、ということを想定していると判断できます。
博物館法は機能的には理念法に近く、規制の効力は極めて弱いものです。令和3年5月14日現在(第5回まで)のWGの議論を踏まえる限り、本改正議論の中で法の性格を変えるような結論は出されないものと判断できます。そのため、博物館法が博物館の「質の維持・向上」の仕組みとして機能するためには、博物館法を根拠とした支援施策をもってインセンティブとせざるを得ないでしょう。
登録(認証)博物館に対していかなる支援策を構築できるのかによって、博物館法がこれからも形骸化し続けるのか、真に博物館の在り方を規定する法令となるのかが決まるように思います。