博物館資料の地方自治法上の位置づけを考えてみた

石井淳平
Sep 11, 2024

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地方自治法における公有財産と物品

地方自治体の所有にかかる物件には、公有財産(地方自治法第238条第1項)と物品(法第239条第1項)があります。公有財産は不動産や著作権等の権利、株式などで、物品は公有財産以外の動産です。不動産である博物館の建物は公有財産(公共用財産)ですが、動産である展示ケースは物品ということになります。博物館資料は不動産や著作権などではありませんので、公有財産にはあたらず、物品に位置づけられます(ただし、所蔵絵画の著作権を博物館が有するようなケースでは有体物としての資料は物品、資料の著作権は公有財産などということがありえるはずです。)。

物品の区分

地方自治体の物品には消耗品、備品、原材料、動物などがあります。このうち、博物館資料に該当する可能性のあるものは「消耗品」と「備品」です。消耗品と備品の区別は地方自治法上定めがありませんが、各自治体の財務規則などで区分が定められています。一般的には

  1. ある水準以上の取得価格であること
  2. 1年単位で消費し尽くす性質でないもの

上記いずれかの性質を有する物品が「備品」と定義されます。ただし、価格が水準以下でも機械的に判断すべきものではなく、物品の性質によって定めるものとされています(地方自治制度研究会『地方財務実務提要第2巻』, pp. 4202–4203)。

博物館資料は「その性質形状を変えることなく、比較的長期間にわたって使用し保存するような物品」という備品の定義によく合致することから、「備品」と解釈することが妥当でしょう。

備品台帳

さて、備品は備品台帳を作成することが必要となります。地方自治法上、備品台帳の作成の義務付けはありませんが、多くの場合、財務規則等でこれが定められています。

物品の出納は会計管理者の業務で、会計管理者は「物品(基金に属する動産を含む。)の出納及び保管(使用中の物品に係る保管を除く。)を行うこと」とされています(法第170条第2項4号)。重要なのは「()」に記述された「使用中の物品に係る保管を除く」で、使用中の物品は、会計管理者ではなく執行機関の長が保管責任を負うこととなります。なので、通常、備品を取得した場合は出納課と原課で備品台帳を1部ずつ持ち合うという運用がなされていると思います。

このような地方自治体の備品管理を博物館に当てはめるとどうなるかを考えます。

博物館資料の出納と備品台帳

博物館資料の出納の権限は会計管理者です。一方、取得や保管は執行機関の長が行うことになりますから、教育委員会所管の博物館資料の場合は教育長が取得・保管の責任者となります。すなわち資料の収集から保管までは次のような手順となります。

  1. 博物館が資料の受納を決定する(執行機関の長である教育長が受納決定する)
  2. 資料は出納課(会計管理者)に引き渡され出納・保管される(備品台帳作成)
  3. 資料は出納課から博物館へ払い出され、博物館で保管・使用される(備品台帳=資料台帳作成)

行政の手順に従えば、形式的には上記のような手続きを踏んで博物館資料は受納されます。資料廃棄はこの逆の手順をたどります。

結論

まわりくどく説明してきましたが言いたいことは次のとおりです。

  1. 博物館資料は地方自治法上の物品(239条第1項)のうち「備品」にあたる
  2. 博物館資料の取得は執行機関の長の権限だが、出納は会計管理者の権限となる
  3. 会計管理者に出納された博物館資料は博物館に払い出される
  4. 博物館では払い出された資料(備品)の管理を適正に行うために管理台帳(資料台帳)を作成する

行政の博物館職員として重要なのは、行政のルールにしたがって博物館資料を適切に扱うことです。「博物館資料は役場の備品とは別モノだ」という理解はまったく話になりません。「オレオレ収納管理」が博物館の首を締めることについて博物館職員は自覚的であるべきです。

話題となった奈良県知事の「資料廃棄発言」(2024年7月10日)は、記者会見全体の発言を読む限り、それほどおかしなことを言っているわけではありません。行政の長として、物品の管理について当たり前のことを言っているに過ぎません。当たり前のことを言っているだけなのに、それが博物館に刺さるということは、博物館の資料管理が行政の常識と乖離している可能性が高いことを意味します。

資料管理で悩む博物館は多いのですが、博物館以外の部署では当たり前にできていることが、博物館ではなぜ適切になされないのか、その現実を認識することが重要だと感じます。そうしたファクト認識の上に立って、資料管理の実務を考えることが適切な資料管理の第一歩なのではないかと思っています。

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石井淳平

文化財保護、博物館について地方自治体職員の立場から意見を述べます。富山大学人文学部卒業(考古学専攻)、北海道埋蔵文化財センター、厚沢部町教育委員会、厚沢部町役場