『考古学・文化財資料3D計測の意義を考える』参加記録

石井淳平
7 min readSep 12, 2020

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趣旨説明(野口淳)

問題意識

3Dデータを普及する側と、それを受け止める側で、そもそも、話題が噛み合わない。普及したい立場では「(3Dデータには)こんなよいことにがある」という視点でセールスをしてしまう。受け入れる側でネックになっていることと噛み合わない。
問題意識を共有している範囲を超えて普及していくためには、

バリューグラフ

本研修会に先立って、クローズドのワークショップを開催した。バリューグラフとは、課題に対する上位の課題や目的を検討するもの。
「なぜ重要なのか」という問いからはじめて、別の上位の目的を探索する。
Miroというホワイトボードアプリを使用した。

文化財の枠の中での上位の目的を超えて広く社会全般に届くような目的に到達できれば良い。

文化財の価値 を共有するた めに(轟直行さん)

文化財保護と活用

  • 多様でより良い研究の実現
  • 多様で新しい価値・思想を創出
  • 新たな価値や思想を国民に共有
  • データ共有→魅力的なコンテンツ創出→地域の魅力向上→地域を愛する心の醸成→共同体の維持
  • 観光産業のコンテンツとして地域の魅力を高める。

三次元計測の意義

  • 記録保存調査における記録の粗密→気づかなかったことは記録されない。
  • 2次元データの相対的な情報量の少なさや公開・共有の範囲が限られる。
  • データ管理側(自治体)による活用事業のため、行政と国民の一方的な関係

博物館からの 新しい価値の 創造(高橋健さん)

三次元データと博物館

  • 「いらすとや」の文化財3D版をめざしたい。
  • 素材として、広く社会での利用
  • 博物館的には脆弱な資料を展示できる。

新しい価値

  • 博物館関係者が提示できるものは研究以上のものに広がっていかない。
  • 博物館の外に出すことによって新しい価値がうまれるのではないか。
  • 博物館がデータを出す+3D計測したい側に便宜を図る。

マインドセットの破壊

  • データコンテンツの作成と公開
  • 新しい価値の想像

大学における 3 D と考古学(平川ひとみさん)

  • 考古学の発展のためには3D計測が有効
  • 大学間で利用可能な資料の有無が課題
  • アーカイブの横断的なプラットフォームが必要

求めたいこと

  • 高解像度や色情報が欲しい。
  • どれほどの情報量を付与できるのか。
  • 品質の問題は考古学以外の方も求めるものだと思う。

過去の資料の3D化

  • 膨大な資料の蓄積、1970年代以後の3D 化

学ぶ者へのきっかけ

  • 記録法として自然に認識されていく。
  • 3Dモデルをつくること、アーカイブ作成と公開がパブリックアーケオロジーの一翼を担う。

考古学の発展

  • 現行の三次元計測方法や記述で海外雑誌の査読がとおるのか。
  • オープンサイエンス、データ再現性へともつながっていく話

文化財3D計測

  • 考古学者が計測を独占する必要はない。

いわむらさんコメント

  • コンテンツクリエーターとしては、考古の資料、文化財の資料であっても、たくさんある初音ミクなどのようなコンテンツに過ぎない。
  • ほかによいコンテンツがたくさんあるのに、ハードルが高かったらアクセスしないよ。とのこと。

地域住民と行政が協力するデジタルアーカイブ活動(fujiさん)

  • 所有者の意向を確認して活動している。
  • その際に、自治体指定文化財は自治体へ許可をとる。
  • ただし、全てのケースで許可が降りるわけではなく、理不尽と思われるケースも多い。

協力が得られなかった事例

  • 史跡公園内の復元建屋はOK
  • 国重要文化財はダメ。

路上博物館の 紹介(森けんと)

  • コスプレの素材研究のための解剖学研究
  • 路上博物館として、博物館素材を提示
  • 博物館が諦められているのでは?という不安

フォトグラメトリーとの出会い

  • 座礁した巨大なクジラは博物館に持ち帰れない。
  • フォトグラメトリーで巨大な資料を持ち帰る。

博物館の学び

  • 学びと遊びは分けられるものではない。
  • 大人も子どもも、興味を持って対象に取り組んでいるときがもっとも深い学びにある。

めざす博物館

  • クリエイターたちに良質なリファレンスを届けたい。
  • 万物を収集している場所は、想像力の源が集う場所
  • 科学のために博物館資料があるわけではなく、万物を理解するための手段としての科学。
  • 自分が観察したい標本を探せる図書館のような博物館

3D デー タの個 性とは?(本間友さん)

  • デジタルアーカイブとデジタルミュージアムの二つの方向性がある
  • 2D の実践上の課題(著作権)が3Dデータにも引き継がれている。
  • データを作る目的として、保存なのか、教育なのか、研究なのか。
  • 公開にあたっての著作権上の処理の問題
  • しかしこれらは、2Dから引き続きある問題で3D固有の問題ではない
  • 3Dデータの新たな問題が何なのかがみえない。
  • 美術分野では彫刻の分野で3Dデータの活用が進んでいる。
  • ギリシャ彫刻の模刻の研究者は活用されている。

3D アー カイブ の取り組みを 通して(大村陸さん)

  • 筑波大学所蔵資料の3Dアーカイブ
  • 継続性を重視し、有料の3D公開サービスではなく、3Dpdfを大学のウェブページで公開
  • 大学所蔵資料の帰属の問題があり、全ての大学所蔵資料が利用できるわけではない。

ライセンスの設定

  • パブドメの見送り
  • 申請による二次利用
  • 申請フォームを簡素化(チェックボックス方式の申請方式)
  • ニーズによってはパブリックドメインでの公開も諦めていない。

知的財産権・著作権の観点から(高田祐一さん)

  • ソフトウェアにかけて機械処理されたフォトグラメトリは著作権ない(とりあえず考えられる)
  • 著作権がないとすると、博物館が作成した3Dデータの流通は機関として止めようがない。
  • 文化財関係者は勉強が必要
  • 社会がデジタル化されているのでスキルが昔とは違う。
  • 「悪用」のどこまでに、データ制作者責任をもつのか(「悪用」とはなにか?)。
  • 営利を目的とした文化財3Dデータの流通や利用よって文化財保存に影響があるのか。

日本将棋連盟棋譜問題

  • 「将棋連盟は、対局内容は団体の利益であり法的に保護される権利であるから棋譜利用は制限できる」と考える。
  • では、著作権がなく、営業利益がない場合はどうなるか?
  • つまり、博物館の3Dデータのようにもともと営業利益を目指していないデータの場合は利用の制限ができるのか。
  • 制限をした場合、「差止請求権不存在確認訴訟」や「債務不存在確認訴訟」のリスク
  • 文化財の知的財産権ガイドラインが必要

質疑応答

質問:営利目的のデータについて、利用の制限が必要なのか
Tさん:博物館の3Dデータと将棋連盟の事例と同じこととは思っていない。昔、写真の撮影を可としたところで出版クオリティにはならない、という理由でOKだったことがあったが、今はそういう状況ではなく、クオリティの問題ではないと考えている。

質問:誰でも共有できる状況になっている状況がよいものか。
Mさん:商用利用をしてもらって、お金が循環する仕組みを作ることが必要だと考えている。きちんと儲けが出るようにしたい。お金を獲得していくことで、活動を持続していける。

自由発言

Hさん

  • ミュージアムや大学のデータは正しくないといけないのか。
  • ミッションはなにか、そのためにどこまでやるのか
  • 「自分のもの感」を出すのに3Dデータや触れるモデルは大切
  • 実物資料を動かせなくても、3Dデータなら動かせるのでグローバルエデュケーションやオープンエデュケーションにつながる。
  • 博物館以外でも3Dの実践は進んでいる。

Iさん

  • 見学者としては写真や3Dデータも同じで、文化財を撮りたい、使いたい。
  • 自治体に問い合わせて蹴られてしまうということが、なくなればよいし、自分のデータを使ってくれたらうれしい。
  • 素人がつくったものとの正しさを比較しても意味がなくて、行政のデータでも1m級の石が描かれてなかったりすることはざらにある。

Yさん

  • せっかく測量したデータが、行政に渡るとイラレのデータになってしまって、もったいないと思っている。

Hさん

  • 町で文化財センターを建てたので、そこでの展示では3Dを使おうと思っている。
  • 古墳の3Dデータで内部を見られない古墳を見てもらおうと思っている。

Nさん

  • 3D計測を学んで人たちが現場に出ていくことで、以前より手法の選択肢が増えた状態になっている。
  • 多様な視点で現場を見ることができることがもたらすものは大きいと思っている。
  • そのことが、考古学や文化財に対する自由な発想につながっていくと思っている。
  • 小さい組織や大学のほうが、意思決定が早かったり、やりやすいところがある。

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石井淳平

文化財保護、博物館について地方自治体職員の立場から意見を述べます。富山大学人文学部卒業(考古学専攻)、北海道埋蔵文化財センター、厚沢部町教育委員会、厚沢部町役場