南北海道考古学情報交換会による遺跡見学会を実施しました。
- 期日 2020年8月23日(日)10時00分〜
- 場所 上ノ国町花沢館跡
上ノ国町「ジョイじょぐら」に集合、野村代表の挨拶で見学会がスタートしました。例年、一般の方にも呼びかけて開催していますが、今年はコロナウイルス感染症拡大防止の観点から、会員限定としました。参加者は11名でした。
花沢館跡とは
花沢館跡は『新羅之記録』に登場する「道南十二館」の一つです。長禄元年(1457)のいわゆる「コシャマインの戦い」で茂別館とともに落城を免れたとされています。このときの戦闘で功績をあげたのが松前家の始祖、武田信広であると言われています。その後、武田信広は蠣崎を名乗り、15世紀後葉には勝山館を拠点としたようです。
花沢館跡はいくつかの平坦面や帯状の平坦面があります。こちらは幅4〜5mほどの細い平坦面が帯曲輪状に連続する箇所の断面調査です。いわゆる切土と盛り土によって平坦面を造り出しているのですが、面白いことに、上位の曲輪の壕の掘り上げ土によって切土面が埋め立てられていることがわかりました。
切土面の上位には厚さ3cmほどの黒色土が堆積していますので、切土面が構築されてから、一定の時間が経過してから上位の壕が掘削されたと考えてよいのでしょうか?いずれにしても、花沢館跡の改築のプロセスがわかる貴重な成果です。
花沢館跡最上位の平坦面直下にある幅5〜6mの帯曲輪状の空間からは陶磁器類が多く出土しています。Ⅴ期の珠洲焼、雷文やヘラ描き連弁の青磁碗、白磁皿(D群)が出土しています。瀬戸美濃の出土は少ないようです。貿易陶磁が卓越する北海道的な様相かと思います。
内面しか写っていませんが、雷文帯のある青磁碗です。この場で利用されたものなのか、上位の平坦面で利用されていたものが投げ込まれたものなのかもしれません。「合釘」という釘頭のない釘が出土していました。木材を外側からではなく、内側からつなぎ合わせるもので、釘頭を表に出したくない場合に利用されるようです。「茶室」や「社殿」など非日常的な空間のしつらえに伴う可能性も推測できそうです。
最上位の平坦面
今年の新聞報道でも話題になった懸仏が出土したエリアです。
遺物も多量に出土したようですが、中央の溝状遺構が気になります。用途はわからないようですが、尾根上のほぼ中央を縦断しており、区画だとすれば、かなり狭い領域に尾根を分断することになりそうです。
話題の懸仏出土位置。このあたりに社殿などがあったのでしょうか?
出土遺物も豊富
遺跡見学の後は、出土遺物を実見させていただきました。
Ⅴ期の珠洲焼。久しぶりに見ました。
中柄。海綿状の組織から、海獣骨由来であろうとのこと。
こんなものまで出るのか、と驚きました。足金物。
勝山館跡でもアイヌ墓や骨角器など、アイヌ由来の遺構や遺物が出土していましたが、花沢館跡でも同様の傾向があるようです。また、古瀬戸が全体として少なく、貿易陶磁が卓越することも、北海道らしい陶磁器組成であると感じました。
アイヌ由来の製品が出土することは、北海道における「文化的ハイブリディティー」を考える上で貴重な事例になるのではないかと思いました。