COVID-19*Museums Online cafe #20「みんなで語る・聴く”博物館法改正”」参加記録

石井淳平
Apr 19, 2022

--

  • 2022年4月17日(日)20時00分〜22時10分
  • オンライン(Zoom)開催

博物館法制度の今後の在り方について(答申)への想い(メモ)(日本博物館協会 半田昌之)

半田さんは、「博物館とは、未来への責任、世代をつなぐ役割であり、究極的には人をつなぐ役割」と語ります。

今回の法改正では、博物館現場の厳しい運営実態が反映されたのか、運営改善への道筋は見えたのだろうか、という点に疑問があるといいます。そうした博物館現場の課題を継続審議することが大切と述べました。一方、博物館全体に関わる法改正について、社会的な関心が高まっていないよ指摘します。博物館法改正議論が博物館関係者の内輪話として進められていると捉えているようです。

半田さんは、博物館の厳しい運営実態を示すデータとして、日本の5,738館のうち、登録館は331、相当施設が139であり、博物館登録制度が機能していない現実を指摘します。

また、博物館の典型的な姿は、常勤職員3人、非常勤1名、常勤学芸員1名であることを指摘し、人員削減の厳しい状況が続いているとします。指定管理者による運営は約3割で、指定管理者についてはこの比率で頭打ちの傾向にあるようです。非常勤職員の増加にも歯止めが効いておらず、人件費の切り下げに伴う非正規代替が進んでいるようです。運営予算、資料購入予算は横ばいや増加に転じる館も見受けられるようですが、すでに博物館関係予算がこれ以上下げられないところまで下がりきっているとコメントされました。

近年の博物館活動については、その力点が展示や教育普及に移行しています。地域課題への対応や利用者ニーズに即した活動展開がなされている館が成果を挙げている館と評価されているようです。

運営上の課題としては、外国人向け対応、情報デジタル化、収蔵庫不足、職員不足、調査研究が進まない、資料整理が進まない、資料購入予算の不足が多くの館に共通の課題として挙げられています。いずれも博物館の基本的な業務に関わるものであり、運営上の課題が博物館活動の本質に関わるものであることがわかります。

半田さんが答申について評価できると感じるのは次の点だと述べます。

  • 所管が文化庁に一本化
  • 文化財保護法、文化芸術基本法との位置づけが明確化
  • 設置者要件拡大と質的審査導入
  • ネットワーク構築の重要性が認められたこと

一方、答申の検討課題は次の点だと言います。

  • 現場意識と法体系が乖離していることを改善していく必要
  • 国立博物館の位置づけ
  • 登録審査体制と第三者機関の役割の具体化
  • 館長や学芸員の位置づけ

「今回の博物館法改正って?」(文化庁 中尾智行さん)

文化庁の中尾智行さんから博物館法改正の要点について解説をいただきました。

今次改正では、博物館法の上位法令として、従来の社会教育法に加えて文化芸術基本法が位置づけられました。従来法の教育施設としての位置づけに加えて文化施設としての位置づけが明確になりました。

博物館の業務として、新たにデジタル化とその公開を進めることが盛り込まれました。デジタルアーカイブにより資料公開を進めて欲しいという趣旨を説明いただきました。

中尾さんは「文化観光」という用語には反発が多いと感じています。法令では、博物館の活動として「文化観光」の推進(法第3条第3項)が新設されましたが、文化観光が目立ってしまう書きぶりとなっています。そのため、博物館の観光施設化が進むのではないかとの危惧が生じているのではないか、と述べます。

質疑

事前アンケートフォームで集約した質問に対して、半田さん、中尾さんが口頭で回答しました。質疑の内容については、中尾さん、半田さん個人の考えによって回答された部分も多く、所属組織の見解と乖離と誤解を生じさせる恐れもあることから、質問概要のみを列挙します。

質問1
現行法19条(博物館の教育委員会所管)が削除された理由は何か。

質問2
登録博物館になれなかった場合、国の補助金が募集申し込みできなくなるのか。

質問3
企業立の博物館が登録博物館になるメリットはなにか。

質問4
各地の民具等のデザインを活かした地域情報の発信や集客を考えている。博物館とのコラボのヒントはないか。

質問5
小さな博物館に勤務しているが、登録の意義が検討されず議論もされない。登録しないデメリットや事務方へわかりやすく伝える必要があると考える。博物館法改正の意義が市民や行政職員にどのように説明できるか。

質問6
現行法下で登録博物館化したが、設置者への説明は大変だった。改正後はますます大変になると予想されるが、どのようにクリアすればよいか。

質問7
アーカイブ化の研修の予定はあるか。

質問8
今回の法改正においては、博物館の定義を明確にし、法令の対象として博物館を捉えることができなかったと思う。博物館法のあり方として、理念法ではなく、文化財保護法における指定文化財のように博物館の定義定め、しっかりとした法令の規制と支援を行うべきと考えているが、登録制度によって達成すべき博物館の活性化や活動の底上げを具現化する手段が示されなかったことが気がかりだ。 具体的な支援策の議論はどのように行われ、国はどのような制度構築を考えているか。

質問9
非正規雇用で苦しんでいる学芸員がこの法改正が減るのだろうかと思う。認識と改善方策を教えてほしい。

質問10
いずれは学芸員の在り方も規定するものになっていくのでしょうか。

質問11
今後博物館振興法のような新法の可能性はあるのか。

質問12
ナショナルセンターのネットワーク機能は厳しい状況にあると思うがどうか。

質問13
今後の大幅な改正はあるのか。現場の意見を取り入れてもらうためにはどのような準備をしたら良いのか。

質問14
今回の法改正は文化庁、日博協として何点ぐらい。

質問15
国の文化観光の理解が少ないのではないか。社会教育施設の担保に不安が感じる。

まとめ

半田さんの説明や質疑応答では、公立博物館においては地域住民が博物館がどのような役割を地域に置いて果たすべきかという点を考えてもらうことの重要性を強調されていました。博物館に関わる問題が、単に博物館関係者の問題で終わっている現状を変えていく必要を感じました。

中尾さんはたびたび法の限界に言及していました。博物館法は博物館振興のための法令であり、これを活用して博物館活動を豊かにしていくのは行政・設置者の役割です。法令は、博物館ガバナンスの方向性を示したものと捉えるべきなのでしょう。

一方、「法制度を軽んじる」設置者(自治体)とあるべき博物館の姿のギャップに悩む現場の学芸職員という図式は、多くの博物館で見られる光景です。現場の学芸職員が法に期待するのは、「軽んじられることのない博物館法」であり、立脚すべき確固とした裏付けです。その点、今回の法改正では「地方の裁量」に委ねられる部分が大きく、また、博物館振興の実弾ともいえる予算事業については不明瞭、あるいは小規模にとどまっています。

まだまだ不満足な点が多く、実効性に疑問符がつく法改正ではありますが、半田さん、中尾さんは口を揃えて「法改正はこれで終わりではない」と述べます。それぞれの現場で改正法に基づく博物館振興に取り組むことが、次なる改正への第一歩となることを期待すると述べていました。

--

--

石井淳平

文化財保護、博物館について地方自治体職員の立場から意見を述べます。富山大学人文学部卒業(考古学専攻)、北海道埋蔵文化財センター、厚沢部町教育委員会、厚沢部町役場