2023年7月9日道南考古遺跡見学会in今金町
南北海道考古学情報交換会の恒例事業である遺跡見学会を開催しました。今回は今金町で金山遺構、チャシ可能性地、メノウ採掘跡可能性地などを見学しました。
蒸し暑い中、13名の方のご参加をいただきました。道南だけではなく、札幌近辺からのご参加もいただきました。
美利河2砂金採掘跡
隣接する美利河1砂金採掘跡はピリカダム建設に伴い調査が行われ、ダム工事によって水没しました。美利河2砂金採掘跡では砂金採掘遺構が良好に残されています。
宮本雅通さん(今金町教育委員会)によると、近世の砂金採掘は段丘面上に導水路を構築して上流から水を運び、台地上を水浸しにして土砂を掘削し、旧河床の砂金を採掘するのだそうです。
砂金採掘跡には流路に沿って石積みがみられます。意図をもって石を積むというよりも、掘削中に出土する大型の礫を脇に取り除いただけのもので、石垣のような安定性はないそうです。安易に乗ると簡単に崩れて怪我をする恐れがあるとのことでした。
蝦夷地の砂金採掘は松前町大沢川を皮切りに、知内川へと推移し、後志利別川流域は最も後になって採掘が行われるようになったようです。後志利別川沿いの砂金採掘は1669年頃には終焉を迎えていたようです。下の写真のような採掘跡が幾筋もみられます。
こちらはすり鉢状にくぼんだ採掘跡です。砂金採掘跡はおよそ定型というものがないように見えますが、溝状に掘り進むものとは異なり、土砂を堆積して砂金を採掘するようなことが行われたのではないかと思われます。
今金町教育委員会ではこのような砂金採掘遺構の分布域約33,000平米を町指定史跡として指定し、今後、整備作業や記録保存調査に取り組むとのことでした。
試掘調査地点A
今金町教育委員会が調査中のチャシ可能性地の一つを見学しました。昭和23年米軍撮影航空写真から判読した堀切様の地形の断面確認が行われました。現時点では明確に遺構と断言できるものはなく、自然地形の可能性が高いとのことでした。
試掘調査地点D
険しく狭い尾根を登って試掘調査地点Dを訪れました。こちらはチャシ可能性地であるほか、メノウ採掘跡の可能性のある遺構が確認されています。
狭い尾根上に現れた堀切状の溝。これは人為的な構造物に見えます。
堀切の中に立つ宮本さん。
堀切を抜けて少し行くと斜面を「コ」字形に掘り込んだ遺構が見えてきます。戦後にメノウを掘り出したことがあるそうです。金テコで地面を突き刺し、石があたったところを掘り起こすという小規模な掘削だったようです。
まとめ
今金町教育委員会では遺跡を探索し、調査を行い、記録を残し、史跡指定などの法的な網をかけ、整備を行うという、文化財保護の王道ともいえる作業を着実に進めています。このような、一見地味な作業をたゆまず進めていることが非常に印象に残りました。
広大な面積に広がる砂金採掘跡の全貌をどのように把握し、記録するのか、方法論や手法についても様々な可能性が考えられます。今金町教育委員会では、航空LiDAR測量やモバイルスキャンも視野に入れて記録を残そうと考えているようです。限られた資源でいかに適切な記録を残すのか、これからの今金町教育委員会の取り組みから学ぶことが多いのではないかと感じました。